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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)6020号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二 被告の責任

被告が加害車の運行供用者であることについては当事者間に争いがないところ、被告は自賠法三条但書の免責を主張するので、次にその点について判断することにする。

(一) 本件事故現場の道路状況

本件事故現場がほぼ東西に通じる車道幅員約二〇メートルの環八通りの路上であり、右道路には中央にグリーンベルトが設置されていて事故現場付近ではそれが切れ目になつていることについては当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、本件事故現場に環八通りと南北に通じる幅員約5.6メートルの道路との交差点およびその付近であつて、右交差点は交通整理が行なわれておらずかつ建物のため左右の見通しが困難であること、環八通りは産業道路と東京国際空港を結ぶ交通頻繁な幹線道路で歩道と車道の区別があり、車道はアスファルトで舗装されていてその左側部分には三の車両通行帯が設けられていること、環八通りの本件事故現場付近は直線・平坦で前方の見通しは良好であり、事故当時天候は晴で路面は乾燥していたこと、右道路には最高速度時速五〇キロメートルの制限のほか交通規制はないこと、本件事故現場に一番近い右道路に設置されている横断歩道は本件交差点から産業道路寄りに約一〇〇メートル行つたところにあることが認められる。原告らは当時原告らの佇立する傍の歩道寄りに停車していた車があつたと主張しているが、この主張に副う<証拠>は必ずしも措信しえず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(二) 加害車の制動能力

<証拠>によれば、加害車はニツサン五〇型、通称ニツサンセドリック・スペシャルであつて、その輪距は前輪が1.354メートル、後輪が1.373メートル、軸距は2.825メートル、制動距離は初速毎時五〇キロメートルで14.3メートルであることが認められる。

(三) 事故直前の原告冬樹および訴外羽仁の行動

原告冬樹が本件事故当時満四才六月であつて同原告には原告静子が同伴していたこと、訴外羽仁が加害車を運転して環八通りの第二通行帯を進行していたことについては当事者間に争いがない。そして<証拠>によると、次の事実が認められる。

原告冬樹、同静子は、京浜急行穴守線穴守稲荷近くに行くべく、本件交差点より前記南北に通じる道路を北行して約三〇メートルのところにある自宅を出て、前記グリーンベルトの切れ目を通り環八通りを横断しようとして本件交差点北西角際の歩道上で一旦立ち止り、手をつないで右道路をほぼ直角に横断をはじめたところ、冬樹は静子の手を振り切つて走り出し、本件事故に遭遇した。他方、訴外羽仁は、同区羽田旭町にある大谷重工業に行くべく産業道路と環八通りとの通称大鳥居交差点を大廻りに右折して環八通りに入り、ギアーを順々に変えてトップにし、第一通行帯から徐々に第三通行帯に移ろうとして第二通行帯を通行中本件事故を惹起した。

(四) 加害車のスリップ痕等

<証拠>によれば、本件事故現場の巾約3.25メートルの第二通行帯には、やや第三通行帯寄りに始まり右車輪のそれが第三通行帯に進入して終つている前輪と後輪の重複した長さ約14.6メートルの真直ぐな加害車のスリップ痕二条が印象されていること、加害車の左前照灯の上のボンネットには直径約五センチメートルの新しい凹損が前後して二カ所あつたことを認めることができる。

(五) 本件事故の概要

前に認定した事実に<証拠>を総合すると、次の事実を推認することができる。

訴外羽仁は、加害車を運転して環八通りの第二通行帯を徐々に第三通行帯に向つて移行する態勢で時速約五〇キロメートルで東進し、左前方数十メートルの本件交差点北西角際の歩道上に佇立している原告冬樹、同静子を認めたが、両名が環八通りを横断することはあるまいと考えそのまま進行したところ、冬樹が静子から離れて右道路をほぼ直角に横断すべく走り出したのを約二〇メートル前方で発見し、咄嗟に危険を感じ急制動の措置を執つたが約一〇メートル空走した後制動状態のままやや右寄りに約一〇メートル進行し、加害車の進行に気付いて左斜前方に逃げようとした冬樹を加害車の左前部付近に衝突させてその進路前方に跳ね飛ばし、数メートル進行した後停止した。

以上の事実を推認することができ、右認定に反する証人羽仁努の証言は信用できない。なお、原告は、加害車は14.6メートルのスリップ痕を路上に残しておりこれをもつてその初速度を逆算すると時速六〇キロメートルを下ることはないと主張する。しかし、前記のとおり本件事故現場は平坦なアスファルト舗装道路で当時路面は乾燥しており、右路面に印象されているそれぞれ約14.6メートルの加害車のスリップ痕二条はともに前輪と後輪が重複しているところ加害車の軸距は2.835メートルであるから、これを控除し、右路面と加害車のタイヤの摩擦係数は明らかでないが、それを0.75(乾燥したアスファルト舗装道路面とタイヤの平均摩擦係数が0.75であることは当裁判所に顕著な事実である。)と仮定して加害車の初速度を推認すると時速約四七キロメートルとなり、したがつて原告の右主張は理由がないというべきである。

(六) 訴外羽仁の過失

本件交差点は、前記のとおり交通整理が行なわれておらずかつ左右の見通しが困難であるから、車両等は徐行しなければならないところであるが(道路交通法四二条)、環八通りのような交通頻繁な幹線道路を通行する車両等に本件の如き交差点においていちいち徐行することを期待することは不可能ともいうべく、したがつて訴外羽仁が加害車を運転して時速五〇キロメートルで本件交差点に進入しようとしたことをもつて直ちに過失があつたとはいえない。しかしながら、本件交差点においては本来ならば車両等は徐行しなければならないのであるから、車両等の運転者は本件交差点に進入しようとするに際しては速度を調節し、とくに前方左右の注視を厳にして進行し早期に交通状況を確認すべき注意義務があるというべく、しかも本件交差点には横断歩道が設置されていないこと前記のとおりであるから車両等の運転者は道路を横断している歩行者があるときはその歩行者の通行を妨げてはならない注意義務があるのであつて(昭和四二年法律第一二六号道路交通法の一部を改正する法律による改正前の道路交通法三八条二項)、したがつて車両等の運転者は本件交差点に進入するにあたつていやしくも道路脇に佇立者がいることを認めたときはその動静に注意を払つてその動静に応じて何時にても危険を避けることができるような態勢で進行すべき注意義務があるところ、前記(四)の事実によれば、訴外羽仁は、本件交差点北西角の歩道上に立ち止まつている原告冬樹、同静子を数十メートル前方に認めながら横断しないものと軽信してその動静に注意を払わずに漫然と進行し、冬樹らが横断をはじめてからそれに気付いたのであるから、訴外羽仁には右注意義務に違反した過失があるといわなければならない。はたしてそうとすれば、免責の抗弁はその余の点について判断するまでもなく理由がないから、被告は被告車の運行供用者としての責任を免れないというべきである。(倉田卓次 福永政彦 並木茂)

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